2021年5月に神奈川県川崎市多摩区にて開業した「ほまれの家登戸店(ほまれの家グループ、運営:Future WINGS株式会社)」、2022年4月に神奈川県相模原市にて開業した「インフィニピー小田急相模原(ほまれの家グループ、運営:インクルクー株式会社)」それぞれのオーナーの今野洋代表と奈良有樹代表の実体験をもとにして、就労継続支援A型事業所の開業、およびソーシャルワークシェアリングという新しい社会概念の普及までの道のりを連載でご紹介していきます。第3回のテーマは、「人材採用と資金調達」です。
活用できる3つの無料の求人媒体
でお伝えしたとおり、就労継続支援A型事業所の開業にあたり必要な主なリソースには、「人材(メンバー、利用者)」「物件」「メンバーにやってもらう仕事」「開業資金、運転資金」の4つがあります。今回は、「人材(メンバー、利用者)」と「開業資金、運転資金」について解説します。
人材の採用にあたり、課題となるのがサービス管理責任者(サビ管)探しです。
「サビ管は案外身近なところにいる」と、当協会の講座・勉強会でもお伝えしていますが、今野は少なくとも10~20人以上に声をかけたといいます。サビ管自体は身近なところにいたそうですが、一緒に働いてくれるサビ管理は見つからなかったようです。
そのため、無料の求人媒体に求人広告を掲載することにしました。利用した媒体は、
・ハローワーク
・インディード
・エンゲージ
の3つと、ジモティにも掲載。ところが全く反響はなく、冷や汗をかいたといいます。
そこで、地域の他の施設がどのように求人広告を出しているのか、他の地域の就労継続支援A型事業所はどのような求人広告を出しているのかを研究し、参考にして改善していきました。
雇用条件や待遇なども参考にし、毎日更新したといいます。
今野曰く、「いろいろな媒体に載せて、毎日更新して。それでも反響がないと、精神的なダメージは計り知れません。それで、“人材募集詐欺”に遭ってしまいました」と、当時を振り返ります。
人材募集詐欺は、「無料で掲載します」と、ハローワークに求人を出すと業者から連絡が来るようです。3週間の無料、同業でも実績ありとのことで、「無料ならいいか」と依頼したそうです。
「有料コースもあるので、反響をみて相談しましょう」ということで契約したはずが、有料コースには申し込んでいないにも関わらず、19万8000円の請求書が後日届いたといいます。事前にチラシが来ており、よくみると小さく注意書きがあって、連絡をしなければ自動的に有料コースに申し込むようになっていたとか。弁護士に相談し、支払う必要はなしということになったようですが、マインドが弱っているとそういった詐欺にも遭遇することになりますから注意が必要です。
その後は悪いものがおちたのか、応募が来るようになります。「オープニングスタッフ募集」「新規開業」など、キーワードを工夫してつけたら応募が来たそうです。
サビ管、職業指導員、生活支援者の3職種を募集し、無料媒体でサビ管4名、職業指導員11名、生活支援者3名の応募が約3ヶ月であったというのは、良い反響ではないでしょうか。
採用には細心の注意が必要
応募が来ると嬉しくなり、今野は「応募者全員採用」という気持ちだったといいます。しかし、フランチャイズ本部からは「ちゃんと人を見て採用してください」と注意されたそうです。
ある例では、グループホームの立ち上げコンサルの経験者から応募があったそうです。今野は採用する気満々。しかし、フランチャイズ本部の人の反応は「うーん」だった。行政への姿勢に関して、違和感があったようです。
また、「他の会社にも応募していますか?」という質問は、必ず面接で聞く質問のひとつで、その人は「いいえ、御社だけです」と答えていたそうです。ところが、人材会社から「良い人がいます」と連絡が来て、プロフィールをみると共通点が多くあり、確実にその人だったといいます。ウソが判明したこともあり、2~3日悩んだ末に採用は辞めたようです。
人材採用は、絶対にその場で決めてはいけません。最終判断は経営者・オーナーである自分自身ですが、自分ひとりで即決せず、周囲に相談する方が良い結果になるでしょう。
福祉への考え方、障がいへの考え方、行政への考え方など、共感ポイントが多い人を採用する方が、長期的には良い採用につながります。
いくらの資金調達が必要か
人材採用のほかに、開業時に課題になるのが資金調達です。
就労継続支援A型事業所は、立ち上げから軌道に乗るまでに約1500万円が必要といわれています。自己資金でも良いのですが、なるべく全額を調達し、余裕資金を温存しておいた方が経営的には良いでしょう。
今野は、政策金融公庫と保証協会付き融資(地銀と信金)に申し込み、それぞれから500万円ずつ、計1500万円調達できれば良い方だろうと考えていたといいます。
事業計画はすでに作成していたため、その資料を活用してそれぞれの金融機関に2回訪問し面談。面談から1~2週間で融資が確定し、結果的には約15日間で公庫と地銀から1900万円を調達することができたそうです。公庫は設備資金として、地銀は運転資金としての借入です。
公庫の場合、物件契約後に融資実行。地銀の場合、指定申請が通った後に融資実行とそれぞれ実行までの条件はありますが、特に滞りなく調達から実行まで進んだといいます。
ほまれの家グループに加盟している場合、フランチャイズ本部として他の事業所の実績を根拠として提出できるため、その点は資金調達において優位に働くかもしれません。
福祉事業の場合、資金調達は比較的難易度が低いとされていますが、それぞれの財務状況や経営環境によって異なりますので安易には考えない方が良いでしょう。